ウェルメイドな傑作『インビクタス/負けざる者たち』

南アフリカ大統領・マンデラを描く映画」と聞くと、作る側も観る側も、何か相当の覚悟を強いられそうな雰囲気ってあると思う。『ミスティック・リバー』以降、ズブロッカでさえも凍てつくような傑作を続けざまに撮っているイーストウッドが監督だと聞くとなおさらだ。観る前から、自然と身構えてしまう。
ところが。出来上がった映画『インビクタス/負けざる者たち』は、なんとも後味の良い清涼飲料水のような仕上がりで驚いた。ラグビーワールドカップで優勝を勝ち取った、というのは歴史的事実なので意外な展開があるわけではない。それでもクライマックスの対NZ戦で観客は映画の中の大観衆とともにスポーツ観戦感覚で素直に応援してしまうのである。マンデラの過去については、映画を見るであろう人はすでに事前に(歴史の授業、ネット検索などで)知っている、という確信からか、基本的に省略されている。台詞でいくばくか語られるのと、南アのチームがマンデラのいた監獄を見学するシーンぐらい。マンデラの波乱万丈な人生を描く作品ではないという宣言。その一方で念願叶ったモーガン・フリーマンは貫禄の芝居でマンデラ人間性に限りなく接近してみせる。ストーリーの切り取り方、比重の置き方、落ち着いた演出、そして好演する無名の演技人たち(+試合でのアクション性、スタジアムの大観衆&ワールドカップというスペクタクル性)、過度なあざとさや壊滅的な破綻がないという意味でも、「ウェルメイド」という言葉がしっくりくる。
イーストウッドにエクストリームな何かを求めるアカデミー会員や一部の人には肩透かしな内容だったのかもしれない。かくいう私も近作の流れからイーストウッドの映画に衝撃を与えられたい、と思ってしまうのは確かだ。(…なんだかおかしな文だな)でも、それは感覚が麻痺している証拠なのかもしれない。このような「よくできた」映画はしっかりと評価されるべきだし、だからこそここにこうして「傑作」だと、自戒を込めてしっかり明記しておかないといけないこの状況、なんだか少し屈折してるな、と感じる今日この頃。みなさん、すてきなバレンタインデー過ごせましたか?

個人的に、試合展開に興奮しているのが顔の表情だけでわかる白人SSの人が印象的でした。